僚香
(幼なじみパラレル)
(この話だけ、やけに進展しています。)





潜りこんだベッドの中は、ほんのり暖まっていた。



窓の外は雨。
冷夏といえども夏は夏だ。暑いうえに湿気も相成り、不快指数はとうの昔にゆとり教育で育った若者が耐えられないレベルに達した。となれば、クーラーが大いに活躍するのも無理のない話である。だからと言うわけではないが、ひんやりとした部屋はいちゃつくには持ってこいで。
文明の利器が全力で役割を果たしているのを尻目に、薄い夏布団の下、体感温度は上がるばかり。


「…熱いか?」
「…あつい」


腕の中から帰ってきた呂律の怪しい言葉はひどく甘ったるく耳をくすぐった。
熱に浮かされたようにうるんだ瞳。とろけた表情。
布越しの触れ合いと口付けだけでそうなってしまう敏感さに、苦笑と愛しさが溢れる。
さらに上がる体温。
衝動にまかせ、茶色い髪からのぞく耳にキスを落とした。

…ちゅ


「ん…ッ」
「耳、好きだよな」
「…るさい」
「なぁ。…いいか?」
「いちいち、…きかないでよ」


その言葉に満足気に微笑み、今度は正面からゆっくり口付ける。


「…りょお…」
「んー?」
「…ッ。…ね、ちゃんと付けてね?」


息継ぎの合間に乞われる。
いつもながら律儀なことだ。たまには生で…なあ?


「…しないとしないわよ」
「あ…はは。考えてることわかっちゃった?…わあってるよ。たく、根っからの真面目っ子だな。おまぁは」


呟いて、ベッドサイドに手を伸ばした。苦笑いを誤魔化すように、その間も髪に、額に、頬に、キスを降らす。

―カサ。


「…ん?」


―ガサガサ。

いくら手をのばせども、乾いた音が響くばかり。
おい。まさか。


「…どしたの?」


愛しい彼女に返事を返す余裕すらない。
空箱が床に落ちたあとも諦めきれずサイドボードを探る手がむなしく空を泳いだ。
神は死んだ。
無い。


「か、かおりん?ちゃんと外に出すからさぁ。今日くらい…」
「だめ」


驚くべき状況判断の素早さで却下される提案。その頬はいまだ火照ったままだと言うのに、有無も言わさぬ口調は取りつくしまもない。
生真面目な彼女の性格は嫌というほど理解している。いわく、無いときにするなんてあり得ない。
そして、自分は彼女の言葉にあらがうことなどできないのだ、情けないとは思うけれども。肩を落とす以外なにができる?


「うう…。この燃える思いをどうしたらいいんだ。なぁ息子」
「変なものに話しかけないでよ」


呆れた様子と裏腹に、寄り添ったままの彼女。いやむしろ、密着という方が正しい。
怪訝な顔で見つめれば、


「可哀想だから、添い寝だけしたげる」


…おいおいおいおいおい。満点の笑みで生殺し宣告ですか。

ますます自己主張を激しくする下半身を持て余し、思い付く限り公式を並べる。ていへんかけるたかさわるにかっこじょうていたすかていかっことじかけるたかさわるにはんけいかけるはんけいかけるぱい!ぱいて!あああ逆効果!!!



無念としか言いようのない失敗を心底嘆けども、拷問のような幸せな時間はまだ中盤にすらいたっていなかった。







 

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