驚きが過ぎ去ってしまうと、次は苛々が募った。
さらには息苦しさも。
胸を叩いたり肩を押したり、不自由な姿勢で抵抗を試みたところで、のしかかる男の体はびくともしない。
いつまで経っても息継ぎできる隙がなく、生命の危険を感じた香は力いっぱい僚の頬を殴った。
「−ッたぁ!おまぁなあ、グーで殴るなよグーで」
…やかましいこのアホ!
思う様罵ってやりたかったが、まずは酸素だ。
荒い息を繰り返し、ようやく人心地つく。
「なんであんたがイタズラするのよ!」
トリックオアトリート、と尋ねたのは香だったはずだ。
そして、僚はトリート、と答えたのではなかったか。
恨みがましく睨みつける香の視線をはね返し、僚はいけしゃあしゃあとのたまった。
「なんでって。甘かっただろ?」
本当に、どこまでも自分に都合がいい男だ。
砂糖菓子のように甘いキスとでも言いたいのだろう。
「あんたのは甘いって言わないの」
「他の野郎のキスなんか知らないくせに?」
「…あんたのは獣のような、って言うのよ」
言ってる側から、舌なめずり。
上手いこと言うね香ちゃんと言うが早いか、またも唇を塞がれた。
(ハロウィンネタでした)