君があんまり可愛らしく笑うから、思わず聞いてしまったんだよ。
「パパのお嫁さんになるか?」
「え!いやだ!」
「ちょ…。そうか…香はパパが嫌いか…」
泣かなかった私をどうか誰か誉めて欲しい。
血のつながりがなかろうとも、私は父親として香を愛している。仕事が忙しくあまりかまってやれないが、愛情は人一倍注いでいるつもりだ。
まさかこんなに早く娘に嫌われることになるとは思わなかった…。
失意にうちひしがれる私を心配そうに見上げ、大きな栗色の瞳をぐりぐりさせる愛娘。
「ううん。香、パパ好きだよ」
一生懸命に慰めてくれる、その姿の可愛いこと!
「でも、香はアニキがいちばんなんだ。大きくなったら、アニキのお嫁さんになるの!!」
秘密だよと笑う天使に、それでも、私は決して悔し涙を見せなかった。
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朝日が眩しい通学路。僚はいつもの場所で級友を待ちながら欠伸を噛み殺す。あーちくしょう清々しいねぇ朝ってなんで来るんだろう。
完全にだらけムードだったが、やって来た秀幸の顔を一目見るなり、眉を寄せる。
「ひでぇ面。どったの槇ちゃん。」
「…最近、家にいづらくてくな」
「は?」
「親父が涙目で睨んでくるんだ。理由を聞いても答えないし、身に覚えもないし…堪える」
「…なんだそれ」
学生服を着るような若者2人に、この気持ちがわかるはずもない。
娘はやらんぞ!!!結婚なんぞ認めるものか!!!
『お嬢さんを僕に下さいには早すぎる』