赤く染まった視界の向こうで、最後の1人が崩れ落ちる。
散々いたぶった後だから、止めの一発には断末魔すら上がらなかった。
こめかみを流れる血をぬぐい、手のひらの血糊をジーンズになすりつけ、力なく横たわる香を抱き上げる。
色を失った唇を見つめると涙まじりに告げられた言葉がよみがえった。
(ごめん。あたし、もっとつよくなるから)
本当は、大声で泣き喚きたかっただろう。足を引っ張る自身を、誰よりも厭うているのは香だ。
「…おまぁはよくやってるよ」
決して本人には言いやしない言葉をポツリと落とす。
兄を殺され。
日陰の家業に身をやつし。
トラップの腕を磨いて。
他の誰が、これほど逞しく生きれる?
多少足を引っ張られようと、それくらいでどうにかなるほど僚は柔ではない。そんなことは香だって百も承知のはずだ。
それでも、至らない自分がどうしても許せないらしい。
「バカだな。普通に生きてりゃ、こんなことで悩まなくても良かったのに」
明るい夜だ。
白く照らされた顔の、細かいすり傷まで見てとれる。
しばらく腕の中を見つめた後、ぽっかりと浮かぶ月に皮肉な笑みを向けた。
「…俺たち、出会わなければ良かったな」
思ってもいないことを口に出し。
頬に流れた滴には、気づかないふりをした。
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(タイトル参考:GOING UNDER GROUND/同じ月を見てた)