―あんたには新しい相棒が必要でしょ?



その一言から始まった共同生活。冴羽アパートに今日も元気な怒号が飛びかう。


「こらー!僚!!何時まで寝れば気がすむのッ!」
「でっけー声出すなよ!おまーの声響くんだッ!昨日飲みまくったから頭ぐぁ…あー…!!?」
「…自分の怒鳴り声で目ぇまわしちゃ世話ないわね…」


依頼がないのもなんのその、飲み歩くのをやめないどころかきっちり二日酔いにまでなった相棒に、香は呆れた顔でグラスを差し出す。


「ったく、リビングが異様に酒臭かったからそんなこっちゃないかと思ったわよ。ほら、水、飲むでしょ?」
「香ちゃん…優しいんだ…」


痛む頭をおさえながら僚が手をのばす。
朝というには日が昇りすぎた時間、香の柔らかい髪が光を浴びてきらきら輝き、それすら寝起きの彼の目には毒だった。


「…どうせなら起こす時も優しくしてくれりゃいいのに。可愛くねーの。」


思わず本音がもれたのも、二日酔い、加えて寝起きで回転が遅い頭のせい。すかさずハンマーで制裁が下される。


「じゃ、か、ま、し、い、ッ!!!この野郎、依頼が途絶えて何日目だと思ってんだ!早いとこ頭すっきりさせてビラ配りに行ってもらおうと思ったら…。あんたに優しさは不要ね。よっく覚えときますッ。」


言い捨て、香はベッドとハンマーに埋もれたままのろくでなしを残し、足音を響かせて部屋を出た。
僚がそっと顔を上げると、


「ビラ配りには行ってもらいますからね。いいかげん起きろよ!」


立ち去ったはずの香がとどめとばかりにミニハンマーを投げつけていった。
今度こそ完全に香の気配が消えてから、僚はのそのそと起き上がり、グラスからこぼれた水でびしょびしょの床にため息をつく。


「槇ちゃんもなぁ…もうちっと女らしく育てようがなかったのかねえ…」


今は亡き槇村に代わり香がパートナーとなってから、さほど時間は経っていない。僚も香も、新しい生活に慣れるにはもう少し時間がかかりそうだった。


「まっ、しゃーない。約束だもんねー。僚ちゃん頑張っちゃうもんね」


ようやくベッドから降り、頭をがしがし掻きながら部屋のドアを開けた僚の動きが、ぴたりと止まる。


「…」


ドアの横に、ちょこんと置かれたミネラルウォーター。思わず左右を確認する。誰もいない。誰もいないが、


「…こゆことするのは1人だよなあ」



今度こそ水を手に取り、渇いた喉を潤す。うかんだ笑みは、爽快感からだけではなかった。


「存外、上手くやってけんじゃねえの?俺たち」


可愛くないパートナーに言ってやれば、ものすごく可愛い反応をするに違いないと頭のすみで考えながらも、間違っても聞こえたりしない小声で呟く。

槇村との約束、これを守るのは当然だ。しかし、約束がなくても、この生活を出来るだけ長く。そう考える自分もいる。


―あんたには新しい相棒が必要でしょ?


言いだしたのは香。そして、このだらしない男との新生活にげんなりしてるのも、きっと彼女だろう。だがもう、


「途中じゃ降ろしてやらないぜ?」


もうひとつ呟いて、ペットボトル片手に階段を降りた。










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(タイトル参考:PornoGraffitti/ハネウマライダー)
はじめてのそうさく。せっかくなので保管。


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